コロナ禍でマーケティングに変化 ! 鍵は「BtoBコラボ」と「透明性」
Partnerize
日本代表 / バイスプレジデント岡本大輔氏
取材 : 上阪 徹 / 企画・編集 : 丸山 香奈枝
成長企業で活躍する方々がどんな価値観を持ち、働く場所や人に何を求めているのか、仕事のパフォーマンスをあげるためにどんなことを大切にしているのか。今、勢いのある海外成長企業・国内先端ベンチャー企業にスポットをあてたインタビュー。
今回ご登場いただくのは、アフィリエイトやインフルエンサーマーケティングをノンストップで対応する「パートナーマーケティングプラットフォーム」をSaaSで提供するイギリス生まれの企業、Partnerize。日本代表 / バイスプレジデントの岡本大輔氏に、そのポテンシャルについて聞いた。
INDEX
大切なことは「透明性」。“すりガラス“のビジネスに信用はない
「Partnerizeは企業同士のパートナーシップの有効活用に強みを持っていることに加え、かつては一緒にパートナーを組む選択肢さえなかったタイプの企業がパートナーシップを介して多くのビジネス成果をあげるようになってきました」
アフィリエイトマーケティングの市場規模も拡大し、パートナーマーケティングの一種として、今も急速に成長を続けているという。
「成長と進化を遂げている一つの理由は、企業同士などが協力するパートナーシップに強みがあるからです」
企業同士がパートナーシップを組むパートナーマーケティングは、他社と協力体制を築きマーケティングの機会を拡大することを目的にしている。
このパートナーマーケティングをPartnerize独自の強みを生かし「パートナービジネス」と名付け、データドリブンな意思決定と最適化を可能にし、物販や申込みなどを行うマーケティングを自社のコントロール下で管理できるプラットフォームを提供している。
「マーケティングプログラムの作成から管理・分析、人工知能を用いた成果予測まで、一括管理できるソフトウェアを提供しています」
2010年、イギリスで生まれたPartnerizeは、現在では全世界300社を超えるグローバル企業がクライアントにずらりと並ぶ。
「グローバル企業は、世界のいろんな地域でビジネスを展開しているわけですが、パートナーとのビジネスに関しても一元管理をしたいんですね。各国ごとに異なる施策を展開していますから、マーケティング状況を確認してデータをまとめていくには収集するだけでも時間がかかります。また、どの国でどんな状況なのか、同じデータソースを見て判断を行いたいわけです。そうすれば、国ごとの状況も共有できますし、本社のアドバイスによって、世界全体での成果の向上が期待できます」
そしてもう一つ、岡本代表が重要視しているのが「透明性」だった。
アフィリエイターなどの第三者が会社の商品を紹介して購入が行われたら報酬が支払われるというアフィリエイトマーケティングは、もう20年以上前から変化のないシンプルなビジネスである。
「企業は、広告代理店やアフィリエイトサービスプロバイダーにデータの計測や報酬の支払いの依頼をしていたわけですが、ここで課題の一つになっていたのが、透明性だったのです。本当にその計測データは正しいのか、しかるべき報酬が提携先に支払われているのか。事実、不明瞭なケースもあり、実際に不正が明らかになったことすらありました。信頼を得るためには事実をすりガラスのままにするのではだめだと考えました」
広告代理店やプロバイダーなどの第三者にすべて依存するのではなく、企業がPartnerizeのプラットフォームを使う最大のメリットは、自社でデータが管理できるということだ。
自社のビジネスに責任をもつという点に照準をあわせ、そのためにデータを自分たちで入手し、直接アフィリエイターなどのパートナーとコミュニケーションを行い、透明性を持って報酬を支払うプラットフォームをつくりあげていった。
「マーケティング状況はリアルタイムに把握できます。多言語に対応しており、通貨も選べる。どの商品がどのくらいの売り上げが上がったのか。どんなパートナーが動いて、どういう状況がもたらされたのか。デジタル上のデータを計測できるシステムを提供することができ、より透明性の高い、スピーディーなマーケティングへと進化しています」
データ分析の透明性とスピードは企業にとって大きな武器
提供されるデータは、細部にわたる。クリック数、購入数、時間、経由の媒体、属性、モバイルなのか、PCなのか……。
「こうした詳細データによって、今後はどんなパートナービジネスが最適なのかを、分析していくことができます。PCからモバイルへの移行もそうですが、時代とともに最適な形は変わっていきます。今後は貢献度を明らかにしてAIを活用しながらパートナーの組み合わせでの効果の最大化といった戦略に結びつけていくことができるわけです」
これが第三者にデータ管理を任せていた場合、リアルタイムでのデータ計測はまず難しい。さらに、1週間後にデータをもらうようなスピード感ではデジタル化する社会での競争に勝てない。
また、成果のデータはパートナーにも共有されるため、適切な報酬がきちんと払われているかどうかも明らかになるだけでなく、データを分析することでパートナーがビジネスを拡大していく上でも透明性とスピードは大きな武器になる。
「日本法人は、創業から2年後の2012年に設立しました。グローバル企業が日本のマーケットを重要視していて、日本からのサポートが求められていたこともありますが、実は日本ではパートナーマーケティングがすでに広がっていたことも大きいと思います」
いわゆるデジタルマーケティングでは、広告を使うことが最も一般的な方法だが、インターネット広告は競争が激化し、広告をコントロールすることが難しくなっていた。
「グローバルでは、Google、Facebook、Amazonのデジタル広告のシェアが8~9割とどんどん広がっています。日本ではこの3社にYahoo!とLINEを合わせた5社でインターネット広告市場の7~8割を占めるまでになっています」
みんなが集中して利用をするので、値段もどんどん上がっていく。1件のビジネス獲得単価が上がっているということだ。
「また、マーケティングのコントロールも難しくなっています。急にアルゴリズムが変わったり、広告規制が入ったりすることも多々起きています。巨大プラットフォームに依存し過ぎていると、ある日突然売り上げが2、3割もドーンと下がる、などというリスクもありました。経営的なリスクヘッジも考え自分たちでコントロールできるマーケティングが求められています」
既存の広告だけに頼らないパートナービジネスの期待が高まっていたのだ。だが、これも広告代理店やアフィリエイトサービスプロバイダーなどの第三者に委ねていたのでは、自社でビジネスをコントロールするのが難しい。肝心のデータもすぐにもらえるとは限らない。そこで、自分たちでクローズドのパートナーシップを構築しコントロールできるPartnerizeのプラットフォームが支持されたのである。
グローバル企業の日本法人での導入はもちろんのこと、日本で事業を展開している日本企業からの導入も増えているという。
マーケティングのトレンドは「BtoB」コラボレーションへ
パートナービジネスのパートナーには、アフィリエイター、メディア、インフルエンサーなどがあるが、最近は一般企業同士がパートナーになるBtoBが注目されているという。一般企業の取り組みによって例えば、送客したユーザーがeコマースで商品を購入すれば、もちろんクライアントから報酬が支払われる。この場合にも、Partnerizeのプラットフォームが使える。
「例えばアメリカでは、遺伝子検査の会社と旅行会社がパートナーシップを組んだ事例があります。遺伝子検査で祖先がわかれば、その国に行ってみたくなりませんか、ということで検査を終えた人にクーポンを発行。それを使えば、旅行会社から遺伝子検査の会社に報酬が支払われる仕組みです」
こんなケースもあるという。スポーツメーカーが、サッカースタジアムの座席にQRコードを載せる。試合が盛り上がって、このチームのユニフォームを買おう、と思ったらQRコードから、スポーツメーカーのeコマースに飛ぶことができる。これでユニフォームが売れれば、スポーツメーカーからサッカースタジアムに報酬が支払われる仕組みだ。
「デジタルマーケティングはどんどん進化しています。既存のマーケティングには限界が来ている。できることも減っているのが現状です。そんな中で、これまでにないような新しいことをやっていかないといけない、という動きが出てきているんですね」
BtoBとはつまり、コラボレーションでもある。
例えば、契約者の病気をできるだけ防ぎたい保険会社と、健康のためにランニングシューズを履いてスポーツを楽しんでほしいスポーツメーカーがタッグを組めば、お互いにWin-Win。こうしたコラボレーションのきっかけとして、パートナービジネスが使われるということだ。
「コラボレーションする2社がプラットフォームから得られるデータを活用することができれば、また何か新しい施策やアイデアにつながっていく可能性がある。今後の大きなポテンシャルを秘めているのが、パートナービジネスのBtoBモデルだと考えています」
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大で、eコマースの成長が伝えられているが、Partnerizeの日本法人への問い合わせも、3~5倍になっているという。
「リアルのビジネスがコロナで大きな影響を受け、デジタルへのシフトは欠かせなくなってきています。しかも、広告ではコントロールが難しい。それ以外の道として、パートナービジネスへの注目はますます高まっていると感じています」
そして、もう一つの注目がグローバル化だ。
「グローバル展開を考えているけれど、多言語対応は難しい。そこでPartnerizeのプラットフォームを活用する。リスティング広告やディスプレイ広告と異なり、私たちの仕組みがパフォーマンスベースであることも魅力だと思います」
「代わりはいくらでもいる」という危機感が人の“限界“を引き上げる
Partnerizeの日本代表を務める岡本氏は、大学を卒業後、日本のスタートアップ企業に入社。その後、アドビ、Criteo、フェイスブック、Domoなどシリコンバレーの会社を経て、Yahoo!Japanでセールス&オペレーションやバーティカルセールスの部門を管轄していた。
「新しいことが大好きなんですよね。何かが再定義されていく領域に、とても興味が湧くんです」
そして2020年5月にPartnerizeの日本代表になった。
「いわゆるGAFAは巨大化していったわけですが、GAFAではない新しい道がないか、と思っていたんです。そこに、20年の間、大きく変わっていなかったパートナービジネスという領域と出会ったわけです。データとコミュニケーションで、このビジネスを変えていくことは、新しい道になると思いました」
長く外資系企業にいて、一つ感じていたことがある。
「民主主義が進んでいるということです。誰にでもチャンスがあって、データが与えられて、自分たちでやっていこう、という空気が強い。ボートを漕ぐのに例えれば、誰かが先導してみんなでこぐのではなく、自分自身で判断して進んでいく。濁流にも突き進んでいく。だから、スピード感を持ってやっていけるんです」
こうした自立の考え方は、これから日本でも広がっていく、と感じている。
「誰かにデータを管理してもらうのではなく、自分たちでリアルタイムのデータを得て、自分たちで考えていく。企業でも個人でも、そういう変化が、これまで以上に求められてくると考えています」
なぜ海外では、民主主義が進み、自立の姿勢が強くなるのかといえば、そうでなければ生き残れないからだ。
「自分の力を磨き続けないといけないし、学び続けないといけない。そうでないと、吹き飛ばされてしまいます。私は格闘技が好きで自分もやりますが、じっとしていたらやられてしまうんですね。ずっと手を出し続けないといけない。何が正解か、わからないながらも、動き続けることが求められるんです」
もともとの性格は引っ込み思案だという。しかし、そんなことを言っていられない環境に自ら身を置いた。
「それこそみんな、スマートな顔をしているようにみえても、水面下では猛烈に足をバタバタさせていると思います。代わりはいくらでもいるからです。その椅子はみんなが欲しがっているんだ、と私も直接、言われたことがあります。常にデータを見て、常に自分を磨き続ける。それはずっと変わらないですね。精神的にも鍛えられました」
Global Business Hub Tokyo(GBHT)に入居前は、永田町にオフィスがあった。これからはもっとダイナミックに動ける場所にしたい、と大手町に移転した。
「日本の中心部ですから。ダイナミズムを感じられますよね。これまでいろんな外資系で、こうしたオフィスを経験してきましたが、サポート、コミュニティなど、とてもバランスがいいと感じています。人が増えても、拡張可能。三菱グループのオフィスに入っている信頼性も大きい。これから、横のつながりなども楽しみにしたいです」
パートナーマーケティングの歴史は長い。それだけに楽しみだという。
「長く変化をしてきていないところを最適化して、新しい価値をクライアントに提供していくことができる。とりわけBtoBのモデルには、強い関心があります。新しいエコシステムを、作っていきたいですね」
自身を「臆病」だと謙遜する人柄とは裏腹に数々の厳しい経験にあえて身を置き、困難を乗り越えてきた。経験から培われた「強いメンタル」はコロナ禍のビジネス変化にもスピーディーに順応している。
「兵は神速を尊ぶ」という格言のように、スピードと行動力は「パートナービジネス」の可能性を推し進める確かな原動力になっている。
撮影 : 刑部友康