世界の金融機関がラブコールを送った「高いセキュリティ」が業界の常識を超えた理由!

Symphony

APAC地域代表代理上原 玄之氏

文:上阪 徹  /  編集:丸山香奈枝

グローバルに活躍する方々がどんな価値観を持ち、働く場所や人に何を求めているのか、仕事のパフォーマンスをあげるためにどんなことを大切にしているのか、今、勢いのある海外成長企業・国内先端ベンチャー企業にスポットをあてたインタビュー。今回ご登場いただくのは、世界の大手15の金融機関が出資するほど惚れこんだプラットフォームを提供しているSymphony APAC地域代表代理上原 玄之氏。金融機関の可能性を変えたといわれる革新的事業について伺った。

メガバンクも惚れこむセキュアな環境が働き方の可能性を広げる

金融の世界は、膨大な量の情報が飛び交い、スピードも正確性も求められるタフな世界だ。しかし、何より扱う情報の性質上、セキュリティとコンプライアンスはさらに強く問われるだけに、便利な情報プラットフォームというのはなかなか出てこなかったという。それこそ、電話やメール、ファックスや回ってきた紙にハンコを押す、といったツールが長い間、当たり前になるほど、金融機関が納得するほどのセキュアな環境を満たすツールの壁は高かったという見方もできる。

そんな中、2014年に生まれたのが、セキュアコラボレーションプラットフォームを展開しているベンチャー企業、Symphony(シンフォニー)。シリコンバレー発のユニコーン企業だ。その日本法人が Global Business Hub Tokyoに入居している。アジア・日本展開を担当する上原玄之氏は語る。
「セキュリティ、コンプライアンス、さらには規制で囲まれている金融業界でも、チャットができたり、モバイルで業務が進められたり、ビデオで話すことができたりするコラボレーションプラットフォームです。プラットフォーム上にはアプリケーションものせることができますから、チャットボットを作ったり、RPAをつなぎこむことによって業務の効率を改善させることができます」

すでに世界で340以上の金融機関が採用。日本でも、メガバンクや証券会社が導入しているほか、東京証券取引所でも実証実験を行っている。

世界の名だたる15の金融機関が出資する魅力的な暗号化技術とは

Symphonyの大きな特徴は、ゴールドマン・サックスやシティグループなど、世界の大手15の金融機関が共同出資して発足したことだ。

「各金融機関ともに業務の非効率の問題を強く認識していました。しかし、一つの金融機関が問題を解決したとしても、取引をする証券会社や信託銀行、情報ベンダーができていなければ同じです。コミュニティ全体を変えないと問題は解決できない。そこで、共同出資をして爆発的展開をするという方法が最も効率的だと考えたんです」

金融機関の中にも、もちろんアイディアや技術があったが、セキュアメッセージのプラットフォームを作っていたPerzoをSymphonyが買収。その技術を組み合わせてSymphonyのプラットフォームとして展開している。

「社内の業務のみならず、社内と社外の業務、社外とコラボレーションするところでも効率化が測れることが強みです。情報漏洩は許されないのが金融業。Shymphonyのテクノロジーは、非常に高いコンプライアンスとセキュリティ基準を設定し、高い機密性を維持しています。

膨大なデータを扱う金融機関は、クラウドの活用を目指してきたが、そこには怖さがあった。だから、自社の中にデータセンターを持っていた。しかし、この暗号化技術が、クラウドに大量のデータを動かすことを可能にした。

「Symphonyが提供しているのはクラウド型のSaaSサービス。すべてのデータは弊社のクラウドを通っていくことになります。しかし、保存されているクラウド内のデータを読むにはカギが必要なんです。そのカギは、お客さまとなる金融機関しか持っていない。弊社は持っていないんです」

仮にSymphonyがハッキングされたとしても、データは暗号化されているため、ただの数字の羅列になる。

「こうした設定は、ありそうでなかったんですね。金融でエンドツーエンドの暗号化を可能にする特別な設定はSymphonyが特許を持っている特別な技術です。セキュリティとコンプライアンス、これこそ、金融機関が何より欲しいと思っていたもののひとつだったんです」

例えるなら、自分の家にカギを使って入るようなもの。カギがないから他からのアクセスはできない。金融サービスに関する各国の規制もクリアできるという。

そしてもうひとつ、業務を効率化させるという点で強みとなっているのが、オープンプラットフォーム。チャット会話中に文脈を読み取り、外部から関連するコンテンツを自動で探して表示することもできるという。
例えば、ある企業に関する投資の話題がチャット中に出たとする。そうすると、企業名、投資、機会といったキーワードで、インターネット上や社内データから情報を引っ張ってくることができる。会話を中断してリサーチする必要がなくなり、意思決定までの時間を短縮することができる。

「チャットのメンション機能でプライオリティを付けたり、ポップアップで大事なメッセージを知らせてくれたり、といったことも可能です。また、例えば原油に関する情報が欲しい、となったとき、かつてなら、なんとかしてあちこちに散らばっている社内の情報を集めるか、上司に相談するくらいしか方法がなかった。上司を教えてもらって中東のエキスパートを見つけてメールを入れても、親切に教えてくれるとは限らないわけです」

そこで社内で発信されている情報には、例えばハッシュタグを活用できるようにする。「#原油」で検索することで、発信された社内エキスパートの情報も見つけられるようになる。業務効率は大きく変わっていく。

ゴールドマン・サックスでのタフで刺激的な経験が今につながっている

2018年にSymphonyに加わった上原氏は、1998年からゴールドマン・サックスの日本オフィスに勤務し、ヴァイス・プレジデントを務めていた。

「実は在職中から、Symphonyのプロトタイプづくりに関わっていたんです。金融業界のコラボレーションをどう効率化するか、というミッションに賛同し、退職して転じることにしました」

父親の仕事の関係でアメリカへ。現地の高校を卒業後にコロンビア大学に入学、土木工学を学んだ。コンピュータに関心を持ち、最先端の機材がある、と金融業界を就職先に選択。日本のゴールドマン・サックスに入社した。

「全力で仕事をすれば、いろんなことを自分で決められる。自由に仕事ができ、世界中の人とコラボレーションができる。楽しかったですね」

上司も部下も目の前にいるとは限らない。海外の多様性のあるメンバーたちと仕事をすることが多かったと語る。

「日本の人は会議でもあまり質問をしたりしませんが、海外の人は違う。だから、何か物事を決めるのは、侃々諤々で大変です(笑)。でも、いろんなアングルからリスクが検証されますから、大きく失敗することはないですし、このプロセスを経て出てきたものは強い」

Symphonyの事業は欧米でスタートしたが、アジアに拡大するところで会社に参画した。

「金融・フィンテック・IT」大手町は同じ空気感を共有できる先進的な街

日本は当初2人でスタートし、人数が増えてきたところで、2018年に Global Business Hub Tokyoに入居。アメリカ本社、日本のパートナー企業、双方から推薦があったのだという。オフィスの候補は10社以上ピックアップし、検討したというが、最後は Global Business Hub Tokyoに決めた。

「ひとつは、大手町という場所ですね。金融しかり、フィンテックしかり、IT企業しかり、コラボレーション相手と同じ空気を感じるからこそ、見えてくるものがあるからです」

実際、ユーザーごとに課金する仕組みになっているが、新型コロナウィルスの問題が起こると、向こう3カ月はどれだけ追加のユーザーIDを作っても課金をしない、という決断を行い、後に欧米でも行うことになったという。

「もうひとつが、ストレスのない環境です。ミーティングルームがすぐに使える。電話会議のためのフォンブースがある。ちょっとしたカンファレンスができるスペースがある。ちょっとしたストレスが積み重なって非効率が生まれるんです。ストレスをなくすことが何より大事でした。ベストなオフィスの選択なくして、最高の組織は作れません」

たった一つの意識で組織のパフォーマンスは劇的に変わる

そして組織のパフォーマンスを上げる上で最も大事なことは、個々人が会社のミッションをしっかり理解することだと語る。

「理解して賛同していれば、個人個人がクリエイティブな方法を見つけて、ミッションを果たす方法を考えるんです。だから、ミッションを理解する機会があることも大事。このオフィスには、どこでもホワイトボードがあって、ディスカッションができたりする。そのための、いい機会をたくさん作れますね」

今は東京、香港、シンガポール、オーストラリアのスタッフみんなで、アジア全域を見ている。

「部下は海外にもいますが、彼らがオフィスに来ているかどうかも、私にはわかりません。逆に彼らは、頑張っているので評価してくれるだろう、とも言わない。評価の対象は成果物だけです。オフィスに来て、どれだけ頑張ったか、ではなく、どんなプロジェクトをどう進めたか。距離があるからこそ、ここでも大事になるのがミッションを共有することなんです。それがわかっていれば、個人がどうプロセスすればいいかも個人でわかる」

自身も、最も大切にしているのは、ミッションだという。

「こういうことを解決したい、顧客と一緒にこんなことをしたい。ミッションをちゃんと持っていれば、仕事は楽しいものになります」

それこそミッションがあれば、多少厳しい仕事もポジティブに捉えられる。それはそのまま、自分の力になるからである。上原氏のタフで強靭なメンタルの原点はここにある。

撮影:刑部友康

補足情報

Symphony

APAC地域代表代理上原 玄之氏

PROFILE

上原 玄之氏

コロンビア大学卒業後、約20年間に亘りゴールドマン・サックス社にて日本・香港・インドを含むアジア地域のテクノロジープラットフォームの構築やワークプレースの変革に携わり、Symphony 導入にも貢献。
2017年8月よりSymphonyにてアジアパシフィック戦略・企画担当として日本市場およびアジア地域での事業展開に従事。グローバル金融業界でのテクノロジーインフラやプラットフォームに関する経験を活かし、グローバルおよび日本の金融機関のコミュニケーション・プラットフォームを通じた業務効率向上をサポートしている。

Symphony

2014 年 10 月に世界の大手金融企業 15 社により共同設立されたシリコンバレー発のテクノロジー企業。効果的で安全性の高い単一のワークフロー・アプリケーションを提供し、企業やユーザーのコミュニケーション手段に変化をもたらしている。複雑なデータ・セキュリティの保護や、企業コンプライアンスを徹底しつつ、個人やチーム、あらゆる規模の組織の生産性を飛躍的に向上させるための支援を事業の目的としている。カリフォルニア州パロアルトに本社を置き、香港、ロンドン、ニューヨーク、パリ、シンガポール、ソフィア・アンティポリス、ストックホルムそして東京でもオフィスを開設して事業展開をしている。

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